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JOURNAL 2022.07.09

KARAE JOURNAL Vol.09 作陶家 「三藤窯」三藤るい

「私の原点は日常の食卓。人と人を繋ぐ器を作りたい。」

 詫びさびの世界で育ってきた唐津焼の伝統をそのままに、柔軟に現代の食卓に寄り添った洗練された器を生み出す『三藤窯(みとうがま)』窯主、三藤るいさん。理想の器を追い続け、作陶家の道へと進んだ三藤さんは、唐津焼作陶家・川上清美さんのもとでの修行後、三藤窯を築窯しました。作陶家への道のりと、真摯に理想を追い続ける情熱の源を伺いました。


福岡で生まれ育った三藤さん。作陶の道へ進む以前から器好きだったとか。

 母が器好きで、幼いころからやきもののある食卓で育ちました。高校生になると、母と二人で有田、唐津と九州各所のやきものの地へ窯元巡りに足を運びました。車の免許を取って初めて運転した先も窯元巡りでしたね。母の作る食卓には、窯元巡りで集めたいろんな器が使われていました。色彩豊かなもの、華やかなもの、渋めのもの…。単体で見ると好みでない器も、食卓のなかに置くと光るものがあったり。そうやって様々な器とお料理の組み合わせを母と考える時間がとても好きでした。

それでは、器好きが転じて作陶家に?

 それが、学生の頃から美術工芸は不得意で、作陶家になろうとは全く思いもしませんでした。旅行観光系の学校を卒業後は、福岡で会社員をしていました。それでも器好きは変わらず、OLをしながら趣味として陶芸教室に通い、いつも会社帰りに作陶をしていました。
 ところが、陶芸教室だけでは少しずつ物足りなさを感じるようになったんです。当時通っていた陶芸教室は福岡市の都会のまちにあり、電気窯で焼いていましたが、どうしてもその焼けに満足できず納得できない。そこで登り窯のある陶芸教室へ行ってみたり、有田の窯元へ通ったりと、とにかく休日のほとんどの時間を陶芸や窯元巡りをして過ごすようになりました。私の理想と現実のギャップをどうすれば埋められるのかと、足りないものを補うように各地へ足を運び、そうするうちにいよいよ本格的に窯元に弟子入りし、たどり着いたのが今の作陶家という姿です。

なぜ数あるやきものの中から唐津焼作陶家の道へ?

 これまでの窯元巡りの経験や、実際に陶芸教室で学ぶ中で、自分自身が好きなやきものとは何かを模索し、目指すやきもの像を具体的にしていきました。どのやきものの道へ進むにせよ、まずは基礎を学ばなければと、有田の窯業学校へ行きました。当時の私は志野焼(※1)にとても心惹かれていて、窯業学校を卒業したら、志野焼を学びに岐阜へ行こうと思っていたんです。それで、せっかくだから岐阜へ行く前に、志野焼と同じ土もの(※2)である唐津焼を見ておこうと、唐津で窯元巡りをしました。そのとき、師匠である川上清美(※3)さんに出会い、岐阜から一転、唐津でやきものを学ぶことに決めました。

(※2)志野焼
志野焼(しのやき)は、美濃焼の一種で、美濃(岐阜県)にて安土桃山時代に焼かれた白釉を使った焼物
(※3)土もの
土を原料とする陶器のこと
(※4) 川上清美(かわかみきよみ)
1948年ー/長崎県出身の唐津焼作陶家。窯業訓練校で陶芸を学び、備前、唐津で修行を重ね唐津市内で独立。唐津産の原土を使用した力強い作風が特徴で熱狂的なファンを持つ。

志野焼から唐津焼へ。大きな転換だったと思いますが、川上氏の作品はそれほどまでに魅力だったという事でしょうか。

 唐津で窯元巡りをした際に、ギャラリーで初めて川上さんの作品と出会いました。川上さんのことを特に知っていたわけでもないのに、惹かれて手に取る作品は、ぐい呑みでも徳利でも、すべて偶然にも川上さんの作品でした。やきものには、こんなにも人を惹きつける強い引力があるのかと驚きました。
 その後、すぐに川上さんの門戸を叩いたのですが、「女性は弟子として取らない」と言われて見事に玉砕。川上さんに限らず、作陶は基本的に肉体労働なので、体力の面において女性であることは、ひとつの壁となっていました。ですが引き下がらず「窯業学校が夏休みの期間だけでも」とお願いし、とにかく川上さんから学びたい一心で、窯業学校のある有田から毎日唐津へ通いました。期間限定のお試し期間を経て、 やっと晴れて弟子入りをさせて頂くことになりました。今振り返っても、陶芸教室で感じていた理想と現実のギャップを埋められるのは、川上さん、そして唐津しかなかったと断言できますね。

ついに三藤さんの理想とのギャップを埋めることができた唐津焼の魅力とは何でしょうか?

 じっくりと手の中で味わいを感じられる風情や趣と、そうした器を素材から作陶できることです。理想とする器を頭の中に思い描いて、それを実現するためにどのような土を使うのか、土をどれくらい滑らかにこすか、釉薬はなにを使うのかなど、ひとつひとつの工程を考え、想いを込めながら作陶できる。現在の唐津焼は作陶作業が分業化されておらず、ひとりの作陶家が素材づくりから販売まで一気通貫して行うので、本当に納得のいく器づくりができるんです。全ての工程に対して、作陶家が責任を持って考え抜く、このプロセスが、唐津焼の滲み出るような味わい深さに繋がっていくのだろうと思っています。

川上氏のもとで修業を経て独立されてから作風や作陶の取り組みに対して変化はありましたか?

 独立当初は、同時期に独立した3人の弟子のなかでも師匠である川上さんに最も作風が似ていると言われていました。当初は作陶の中心は酒器や茶器で、男性的な風情を持つ器が多かったです。ですが酒器や茶器を使う人はお酒を好む人や茶道を嗜む人に限定されます。もっと多くの人が生活の中で使ってくれるような器を作りたいと考えるようになり、あるときから食器の作陶をはじめました。
 食器のなかでも、今挑戦しているのが重箱です。家族や親戚みんなが集まって食事をする機会は減っていますが、お正月やおめでたい日であれば人が集まるでしょう。そんなハレの日に重箱を囲んで食事をしてもらえたら、と。家族との時間に寄り添いながら、親から子へと受け継がれ長く使われ続ける、そんな重箱を作りるのが私の身近な目標です。

器がどのようなシーンで使われるのか、そのイメージを持って作陶されているんですね。器をどんなふうに楽しんでもらいたいですか?

 唐津焼は、使われた素材はもちろん、 器の作り手や窯、作られた場所の景色…。いろんな要素が複雑に交わって、ひとつの器の中に世界観を生み出します。器を自宅に持ち帰り、実際にお酒やお料理を入れてみると、さらに器の表情が変わったり。唐津焼は、使うことによって初めて完成されるという”用の美”の哲学を持つやきものなので、ぜひ生活の中で使ってもらいたいと思います。器の持つ世界観や経年変化など、器を愛でる愉しみを味わってもらえれば嬉しいです。

三藤さんの並々ならぬ作陶への情熱を感じます。その原動力を教えて下さい。

ただただ「好き」という気持ち、それに尽きます。私はもともと器用なタイプではなく、地道に真面目に、ひとつひとつのハードルを乗り越えていかなくちゃいけない人間。これまで、すんなりとは弟子入りできなかったり、ようやく完成したと思った登り窯が工事ミスで崩れたり、様々な壁にぶつかってきましたが、やきものが好きという気持ちだけを原動力にここまできました。困難は尽きませんが、様々な人やものとの出会いの中、素直に自分の心に従ってきた選択の積み重ねが今に繋がっています。

最後に、三藤さんの目指す作陶家の姿を教えてください。

私の器の原体験は、母との時間でした。窯元を巡り、器とお料理の組み合わせを考え、みんなで食卓を囲む。器を通して、豊かな食事や会話、大切な時間を楽しむ。そんな風景を紡げるような、人と人とを繋ぐ器を作りたいと思っています。だれかと食事をしたり、お酒を飲んだり、語らったり、そういう楽しい時間に、私の作陶した器があったら、私はとても幸せです。

ちょこっとこぼれ話

三藤窯のギャラリーでは、お香が焚かれた三藤さんこだわりの空間に、彼女の作品がしっとりと佇んでいます。その中に印象的な八角皿がありました。実は、八角皿のデザインは、八角形の重箱に挑戦するなかで出来た偶然の産物なのだとか。唐津の伝統的な土や釉薬を用いながらも、モダンさを感じる伝統的な模様を掛け合わせることで、三藤窯にしかない自由な発想のスタイリッシュながらも柔らかく日常の食卓に寄り添うような器を、垣間見たような感慨にふけるのでした。


展示会情報/唐津 三藤るい作陶展

▼会期
 2022年9月17日(土)~9月21日(水)11:00~17:00
※期間中、20日(火)以外は作陶家在廊予定
▼会場
 炎色野 HIIRONO
 ●住所:東京都杉並区永福3-33-9
 ●TEL:03-5357-8332

三藤るい -Mitou Rui

1978年福岡県生まれ。福岡での会社員時代を経て、2006年に佐賀県立有田窯業大学校ろくろ科を卒業。唐津焼作陶家川上清美氏に師事し、3年間の修行を行う。2009年に「三藤窯」を築窯、独立した。
きりっと芯の通ったなかに、日常の食卓に寄り添う柔らかさを持つ作風で、新しいモダンなやきものの世界観を切り開いている。

三藤窯 -Mitougama-

住所
〒847-0025 佐賀県唐津市宇木2972-6
TEL
0955-77-0333
WEB
https://www.mitohgama.com
Instagram
@mitohgama
営業時間
三藤窯 9:00~17:00
休業日
不定休 ※要予約
唐津での取り扱いギャラリー
Gallery唐重


観る・買う/ギャラリー唐重

焼き物のお店「ギャラリーKARAE」

唐津くんちの絵巻図と由起子窯の黒唐津焼タイル300枚が圧巻の、ギャラリー唐重&KARAEインフォメーション。ギャラリー唐重は2021年8月オープンし、三藤窯の作品をはじめ、天平窯赤水窯、 由起子窯、 櫨ノ谷窯、健太郎窯、鳥巣窯白華窯岡本修一などのやきものを取り揃えています。

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