メニュー

NEWS

JOURNAL 2020.07.17

KARAE Journal Vol.03 櫨ノ谷窯 吉野敬子

「 自然から離れない、畑から生み出されたような焼き物が私の理想です 」

 父・吉野魁(よしのかい)氏から窯を受け継ぎ、『櫨ノ谷窯(はぜのたにがま)』窯主となった吉野敬子さん。親子で土と向き合い、砂岩を原料とした古唐津(こがらつ)を確立させました。KARAE1Fにあるカェ&ダイニングKARAE TABLEの壁面を彩る唐津焼の陶板アートは、白波立つ唐津湾をイメージした吉野さんの作品です。昔ながらのスタイルを守りながらも新たな風を吹かせる吉野さんにお話を伺いました。

親子二世代で陶芸家の吉野さん。陶芸の道に進んだのはお父様の影響ですか?

 それが全く違うんです。私が生まれる1年前に陶芸の道に入った父ですが、その後ろ姿をみて幼いながらに唐津焼の作陶は「きつい・汚い・眠れない」という嫌なイメージでした。ですので、若いころはとにかくこの田舎から出て都会でスタイリッシュな職に就こうと思っていました。そして専門学校を卒業後、20歳のときに福岡のデザイン会社に就職しました。唐津焼とは無縁の、憧れていたデザイン会社の仕事でしたが、仕事をするうちに商品の中身に関係なく売るためのデザインを作らなければならないことに対して疑問を持つようになりました。その物自体が良いかどうかという「本質」を横においてデザインの仕事をすることが、なんだかつまらなく思えてきたんです。表装のデザインや飾りよりも、ものの本質にかかわる仕事がしたい、そう思うようになりました。そこでふと、実家の父の唐津焼が浮かんだんです。実際デザイン会社の仕事も思い描いていた以上にハードな仕事でしたので、同じきつい思いをするのなら、物の本質に関わるモノづくりの仕事がしたい。そんな思いが芽生えた時、あんなにも飛び出したかった田舎へ帰り、唐津焼の道に足を踏み入れました。

櫨の谷窯(はぜのたにがま)は奥唐津の葦ぶき屋根(よしぶきやね)の母屋であるギャラリーと茶室、カフェからなる

古唐津(こがらつ)のわびさびを追求する日々のなかで、親子で砂岩を原料とした唐津焼を確立し、業界の先駆けとなりました。

 あるとき、父が石を砕く作陶を始めました。400年前の古唐津の素材である土の研究です。毎日のようにあちこちの古い窯跡へ行き、原料と思しき土や石を採って来る。そして唐臼(からうす)〔※〕を作り、石を砕く。当時、誰もチャレンジしていない未知の世界で、古唐津を作った先人達、ひいてはその技術を日本に伝えた朝鮮半島の人々が歩いてきた道のりを辿る旅のようでした。試行錯誤するなかで、成功もあれば失敗もあり、売るものが出来ずに苦しいときもありましたが、その姿をありのまま隣で見せてくれた父には、本当に感謝しています。

※臼(うす)を地面に固定し、杵(きね)を落下させ臼の中で穀物などをつく道具。米や麦、豆など穀物の脱穀に使用された。

そのような古唐津復元の体験は吉野さんの作品にどのように繋がっていますか?

 古唐津を復元する試行錯誤を通して、焼き物の本質は「デザイン」ではない、「素材」なんだと考えるようになりました。素材がきちんとしていなければ、どんなにデザインにこだわったとしても良いものはできない。一方でたとえ素朴なデザインでも、良い素材を使った焼き物は人に使われるうちに空間や使い手に馴染み、どこか深い味が出てくる。焼き物の魅力は素材から来るのだという本質を教わったんです。

 唐津焼の本質を追求し続けた父は、5年前に亡くなりましたが、登り窯や基本的な作陶方法など、私が父の後を継ぎ、作陶を続ける上で必要なことは全て残してくれました。その恩恵を受けながら、古唐津の研究を続けています。納得のいく焼き物の完成までの道のりは遠いでしょう。でもそれが、私の作陶活動の原動力の一つなんです。

陶芸をしながら「半農半陶」という形で畑仕事を続ける吉野さん。その理由は?

 昔から、この谷の人々にとって、作陶と農業は生活の両輪のようなもので、みんな昔は半農半陶で生活していました。農繁期には農業を行い、雨の日や農閑期には室内でろくろを回す。陶芸家という唯一の職業ではなく、土と共に生きていく生活の糧でした。

 父ももとはこの谷の百姓で農業だけでは食べていけず、好きだった陶芸を始めたんです。畑を耕し、田んぼ仕事をしながら陶芸をしていた。だから、『櫨ノ谷窯』のカフェは昔は牛小屋で、ギャラリーは葦ぶき屋根(よしぶきやね)の母屋で、近くに耕す田んぼも畑がある、まさに農家の家でしょう。

 私がその父のスタイルを受け継ぐのは、自然と共に生き、自然や季節を感じながらろくろをまわしたいと思っているからです。田起こしして田植えをして、お正月は家族みんなでお餅を作る。春になれば野草を食べて身体を浄化する。野草を食べるのは現代でいうところのデトックスです。季節の食べ物や食文化にも、実はひとつひとつ理由がある。その自然の摂理を感じながら作陶ができる生き方を大切にしています。

月に1度開かれる野菜販売「櫨ノ谷自然野菜マルシェ」の様子。季節の野菜を自宅に届ける「櫨ノ谷ふるさと便」も行っている。 ※詳細はcafe Reedへお問い合わせください

昔ながらの生活を守りながらも、カフェつくりオーガニックな食を発信したりなど、地域に新たな風を吹きこんでいらっしゃいますね。

 この谷は、風景や食べ物、ものづくりに興味を持って訪れてくれる方や、関東などの地域から移住して自然農にチャレンジする若者が遊びに来る、豊かで面白い素材のある魅力的な土地です。ですが、観光にいらした方がゆっくりと休む場所もなく、また移住してきても相談相手となかなか出会えないのが現状でした。そこで、カフェを思いついたんです。 牛小屋だった古民家をクラウドファンディングで資金を募ってリノベーションをして 、2018年に『cafe Reed』(カフェリード)をオープンさせました。週末限定で営業し、自家焙煎珈琲や無農薬コウカ茶(野草茶)、地産の野菜や果物を使ったスイーツを作っています。
 『cafe Reed』がこの谷で暮らす人々と、この谷に魅力を感じて足を伸ばしてくれる人々の架け橋になって、この谷や周辺の村の活性化に繋がればと願っています。

吉野さんにとって陶芸とは?目指したい唐津焼像を教えてください。

 陶芸は、農業と料理を一緒くたにしたようなものだと思っています。焼き物も、農業と同じく土が素材で、その土地の自然に左右される。それをどう魅せていくのかデザインが加わる。
 そのデザインは誰かに使って頂いてこそのもの。だから、作る器もシーンに合わせた使い心地を大切にしています。商品として消費者の目線を考えながら、その制限の中で自己表現を最大限に発揮させることが、真に陶芸家としてもとめられていることだと今は思っています。
 そして、器をお客様が手にして頂いたり、器が食卓に並んだときに、この櫨ノ谷の景色や空気、自然をふわっと感じていただけるような作品ができたらと思っています。自然から離れない、畑から生み出されたような焼き物が私の理想です。

 

ちょこっとこぼれ話

 山深い谷を進むと趣ある日本家屋、『櫨ノ谷窯』が現れます。ギャラリーに隣接するのは、人々の集まる場として吉野さんが開いた『cafe Reed』。どこかほっとする日本の原風景を眺めながら手作りのケーキを食す。古き良きものを守りつつ、新しい風を取り込む吉野さんらしい空間です。吉野さんの作品はKARAE TABLEにも。「カフェのシーンで唐津焼をどう活かすか。唐津の海を感じてほしくて、長さや幅、色の掛け方をひとつひとつ考えました」。その言葉の通り、壁一面で表現した唐津焼による唐津湾は圧巻の仕上がりです。

 


 

見る / 草伝社 櫨ノ谷窯 吉野敬子展2020

国登録有形文化財の旧井出家住宅 『草伝社(そうでんしゃ)』では、期間限定で「櫨乃谷窯 吉野敬子展2020」を開催。木造の古民家に『櫨ノ谷窯』吉野敬子さんの普段使いの食器から花器にいたるまで、谷の風土と焼成によって生み出された風情ある器が並びます。 詳細はコチラから 。
【会期】 2020年7月18日~7月26日

体験する / 櫨ノ谷窯

HOTEL KARAEでは、櫨ノ谷窯とコラボの体験プランをご用意。草庵茶室『魁(かい)』での茶道体験、葦ぶき屋根の母屋『gallery KAI』で唐津焼を堪能したあとは『cafe Reed』で自家製スイーツと珈琲をお楽しみ頂けます。 奥唐津の美しい日本の原風景が残る里山で産まれた器や食に癒され、エネルギーチャージができる『HOTEL KARAE』の唐津焼にまつわるおススメパワースポットプランです。詳しくはコチラをご覧ください。

泊まる /HOTEL KARAE

KARAE3階のHOTEL KARAEでは、唐津の自然美・白砂青松の風景に着想を得た落ち着いた空間で、ゆったりと寛ぎ頂けます。唐津の玄関口に位置し、駅・バスセンターへのアクセスも良好。唐津ならではの体験プランもご用意。窯跡巡りのポートとなるようなホテルです。

買う/KARAE SHOP

KARAE1階のKARAE SHOPは唐津、佐賀、九州の魅力の詰まったコンセプトショップ。『櫨ノ谷窯』吉野敬子さんの作品をお買い求め頂けます。唐津焼をはじめ、唐津由来のお菓子や小物、アクセサリーなどを取りそろえた、”私のお気に入り”がきっとみつかる唐津の小さなアンテナショップです。

見る /KARAE Information

唐津くんち絵巻が圧巻のインフォメーションでは、個性豊かな唐津焼作陶家たちの作品を展示。『櫨ノ谷窯』吉野敬子さんの作品もこちらでご鑑賞頂けます。

 


 

吉野敬子 -Yoshino Keiko-

1972年伊万里市生まれ。1996年に父・吉野魁のもと櫨ノ谷窯で修行開始し、その後、有田窯業大学校でろくろを、ベトナム・タイで現地の伝統技法を学ぶ。2013年、父より櫨ノ谷窯を受け継ぎ窯主に。2018年 櫨ノ谷窯内に『cafe Reed』をオープンする。親子二代で砂岩を原料とした古唐津の作陶方法を確立させ、業界の先駆けとなった。

櫨ノ谷窯 -Hazenotanigama-

住所
〒848-0006  佐賀県伊万里市南波多町高瀬767
TEL
0955-24-2025
ブログ
https://hazenotani.exblog.jp
Facebook
https://www.facebook.com/hazenotanicafe/
Instagram
@hazenotanigama.karatsu
営業時間
gallery KAI  12:00~18:00  ※平日のギャラリー見学の場合は要連絡
cafe Reed   12:00~18:00(土日のみ営業)
草庵茶室『魁』 ※見学可。要事前予約
休業日
gallery KAI  不定休
cafe Reed   平日(土日のみ営業)
駐車場
有(乗用車6台)