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JOURNAL 2021.06.12

KARAE Journal Vol.07 赤水窯 熊本象

作り手として、「作りたい」という好奇心に素直でありたい。

 モダンで温かみのある繊細なフォルムと色彩豊かな器で、ファンの心を掴む作陶家・熊本象(くまもとしょう)さん。同じく作陶家である父・熊本千治さんと共に「赤水窯(あかみずがま)」で作陶する唐津で注目の若手焼き物作家です。変化を恐れず、磁器、半磁器、陶器と、いろんな手法で、唐津という風土を汲み取りながらも、日常にも取り入れやすい焼き物のカタチを模索し続けます。どこまでも自由な独自の世界観を編み出す熊本象さんの、作陶への想いを伺いました。


「赤水窯」を開いた作陶家・熊本千治さんを父に持つ熊本象さん。陶芸の道を志したのは、お父様の影響ですか?

 いえ、むしろ子供時代は全く陶芸に興味はありませんでした。父も「息子に継がせたい!」というタイプではなかったので、これといって土に触れることもないまま、大学進学のために唐津を出ました。
 しかし、大学に進学したものの、軽音楽部のサークル活動にのめり込んでしまい、ミュージシャンを志そうと1年ほどで退学。その後、音楽に専念するため関西の音楽専門学校へ入学しました。ですが、人生そんな自分の思うようにいかないもの。しばらく頑張っても芽が出ず、音楽の道を断念して実家の唐津へ戻ることに。今後のことを悩んでいたときに、母から「陶芸をやってみたら?」と声をかけてもらって。父が作陶家なので、幸い焼き物を作るために必要な環境は揃っていましたし、子どもの頃から工作は得意ではあったので、何もせず悶々とする日々よりは良いと思い、有田の窯業学校に通いはじめました。そのときは大学もやめて音楽も挫折して、これでモノにならないと後がない…と焦る思いの募る日々でしたね。

窯業学校での短期研修後、唐津の作陶家「天平窯」岡晋吾さん〔※1〕のもとで修行されたそうですね。なぜ「天平窯」へ?

 岡晋吾さんの、枠に囚われず焼き物にアプローチする姿勢や作風に魅力を感じたからです。窯業学校を卒業した頃の自分は、いわゆる「美術品」としての焼き物にはあまり惹かれず、かと言って、生活のために売れる焼き物を作るだけで良いのか?という自問自答をしていて、これからどのような作陶家になろうか悩んでいました。そんな中、岡さんの窯元を見学する機会があり、ここなら作品か商品かの2択だけではない、いろんな着地点を学べると感じ、「天平窯」へ弟子入りをしました。

〔※1〕「天平窯」岡晋吾
色絵、染付、白瓷 (はくじ)、唐津焼と様々な顔を持つ、枠にとらわれない作風が魅力の「天平窯」の窯主。東京をはじめ、各地で個展を開く、全国から人気を博す作陶家。
●「天平窯」岡晋吾さんのインタビュー記事はコチラ

熊本象さんの自由で愛らしさをそなえた作風や色彩。天平窯での修行がどのように活かされていますか?

 もちろん、いろんなことを学んだのですが、岡さんのもとで修行したことで、とにかくたくさんの釉薬〔※2〕に触れることができました。窯業学校ではろくろ科だったので、釉薬のことは全く知らず、天平窯で初めて釉薬について学びました。本当に基本の”き”からのスタートで、実際に調合して色を再現しながら自分の感覚で覚えるという岡さんの指導方針のもと、自分で調合した釉薬を窯焚きして、完成の色を確認し、また再考する…。それを膨大な数繰り返し修行したおかげでオリジナルの釉薬を作れるようになったのは、今の自分の器づくりに欠かせない要素になっていますね。

〔※2〕釉薬 (ゆうやく)
陶磁器の様々な表情を出すために、器の表面にかける覆「うわぐすり」とも呼ばれる。この釉薬によって、様々な色や質感を表現するとともに、水や汚れがしみ込むことを防ぐ。

これまで何度かがらりと作風が変わっていますね。変化するときは、どのようなことを考えてらっしゃるのですか?

 数年前に壁にぶつかり、これまでの作風を続けるのが苦しくなったことがありました。そのとき思い出したのが、初めて開いた個展で出会ったお客様の「自分の使いたいものを作ったら?」という言葉でした。当時は、作陶家として商売をするからには、お客様のニーズに応える器を作らなければいけないと考えていたので、「自分自身が使いたい器」というのはあまりピンと来ないものの、心にずっと引っかかっていました。
 そこで、自分の食卓で自分の器を使ってみると、当時自分が作っていた器は、いろんなものを詰め込み過ぎている、と感じたんです。器の形や装飾は、料理屋さんで使うものと、家庭に馴染むもので全く違います。そのときに、「自分の器は、もしかしたら家庭の食卓には不向きなのでは?」と思い始め、「自分自身が使いたい器」を作ってみると、シンプルで我が家の食卓にも馴染むものになりました。そして、そういう器の作陶に新たな情熱が湧いてきて、器をつくりはじめると、自然と使う素材や釉薬、形状が変化し作風が変わりましたね。

作風を変えるというのは、とてもチャレンジングで勇気のいることだと思います。特に唐津焼は「変わらずある美しさ」を再現しようという作家さんも多い焼き物。変化することに不安はありませんか?

 私自身、意図的に変化させているというより、思いついたものを形にしているだけ、という感覚なんです。結果苦しむことも多々あるのですが。陶器の図録や訪れた展覧会で見たものなど、目に入るあらゆる情報から、作品の着想を得ています。もちろん商売として売れる焼き物であることも重要ですが、アーティストとして得た刺激を形にすることが、私が作陶を続ける原動力なんです。

独自の世界観を作り上げる熊本象さんの、感性の源はなんでしょう?

 自分が何に刺激をうけ、作り手としての喜びを感じるかということのヒントは、20代の頃に熱中した音楽にあります。音楽家を志していた当時、みんなでざっくばらんに音を合わせてセッションする、そんな即興性の音楽がすごく自分にあっているなという居心地の良さを感じていました。そこで、器にも即興性を持たせてみようと。もちろん、食器として使うものなので、実用性や利便性は保ちつつ、余白で遊べないか。例えば、数枚のオーバル皿と釉薬を何色か用意して、理屈ではなく気持ちのままに描いてみる。数十秒で仕上がる作業なので思考が追い付かず、感性がそのまま器に現れてくるんです。そうした即興性から生まれたシリーズがお客様に喜ばれて、人気の商品になったりすることもあります。

挫折を味わったものの、音楽と向き合った日々が今の器づくりに繋がっているんですね。

 作陶していると、「この器は売れるからつくっているのか?自分が好きだから作っているのか?」自分自身が分からなくなることがあるんです。そんなとき、音楽に打ち込んでいた時の自分に立ち返り、あのときどんなことに感動し、情熱が湧いていたのかを思い出します。音楽をしていた頃の自分に身を置くことで、現在の焼き物作家である自分自身を客観視しているんです。
 自分自身を深堀して理解し、器に反映させることで作風を確立させる。この作業は簡単なことではありませんし、膨大な時間がかかります。私の場合、挫折はしたものの音楽と向き合い続けた日々が、まさに自己理解のための時間だったのだと思います。そしてこの経験が、現在の作陶の原点に繋がっています。回り道をしたけれど、今の作陶家である自分を作り上げる大切なプロセスだったのだと思います。

いわゆる伝統工芸品としての唐津焼について、どのようにお考えですか?

 唐津焼は伝統工芸品として確立されている焼き物なので、どうしても伝統の踏襲に重きを置かれがちですが、古唐津の図録を見ると、今唐津焼として皆さんがイメージするのとは全く違ういろんな種類の焼き物がたくさんあるんです。きっと昔の作陶家たちも、現在より情報や環境、素材が限られている中で、いろんなことを試したり遊んだりしていたんでしょう。 私は、伝統的な唐津焼は作っていないけど、唐津という焼き物の里で脈々と受け継がれてきた、そうした作り手たちの「作ってみたい」という欲求や好奇心、スピリッツを大切に受け継いでいきたいと思っています。

最後に、これからの挑戦してみたいことなどあれば教えてください。

 私の作陶家としてセカンドシーズンが始まりつつある中で、次のステップとして挑戦してみたいのは抹茶碗です。唐津焼は古くより茶器として高く評価され愛されてきた焼き物ですし、唐津で焼き物をするからには、茶器をつくるというのは避けて通れない道のように感じています。
 心地よさや遊び心はそのままに、気品もあって、わびさびの世界に置いても遜色のない作品を生み出せれば理想ですね。お茶という伝統と格式ある世界に、私の意匠がどこまで通用するのか。伝統を重んじながらも、新しい切り口を見出せたらと思っています。

ちょこっとこぼれ話

どこまでも自由でいて、自分の気持ちに素直であるという一本筋の通った熊本象さん。お話を聞いているそばには、「赤水窯」の店長、ブリティッシュショートヘアの猫・そうへい君がいました。猫と暮らしてきた象さんの作品には、そうへい店長はじめ、猫モチーフのユニークで可愛らしい焼き物がたくさん。取材時はちょうど”ネコの日”に向けて、”猫たちのいるうつわ”展の準備中でした。優しい色合いと、あたたかみのある質感、ひとつひとつ表情がちがう猫たちに思わず微笑んでしまいました。


展覧会情報/熊本象 陶展

▼会期
 2021年6月5日(土)~6月27日(日)11:00~17:00
▼会場
 gallery サラ
 ●住所:滋賀県大津市北比良1043-40
 ●TEL:077-532-9020


熊本象 -Kumamoto Sho-

1977年佐賀県唐津市生まれ。父は「赤水窯」窯主・熊本千治。佐賀県有田窯業大学校ろくろ科を卒業後、唐津の焼き物作家「天平窯」岡晋吾氏のもとで3年間する。2010年より「赤水窯」で作陶を開始。
遊び心がのぞく繊細な作風で、オリジナルの釉薬による鮮やかで可愛らしい色彩が、ファンの心を掴んでいる。

赤水窯 -Akamizugama-

住所
〒847-0022  佐賀県唐津市鏡4758
TEL
0955-77-2061
WEB
https://www.akamizugama.jp
Facebook
https://www.facebook.com/akamizugama
Instagram
@akamizugama
営業時間
赤水窯 11:00~18:00
休業日
毎週火曜日


味わう/KARAE TABLE

KARAE1階「F.L.O.S.S(フロス)」をテーマにしたカフェ&ダイニングのKARAE TABLE。陶板アートが壁一面に施された空間で、唐津・佐賀・九州の新鮮な食材を楽しめます。MY唐津焼マグカップを選んで楽しんるコーヒーセットもあり、カフェの楽しみ方が広がります。メニュー詳細はコチラからどうぞ !

観る・買う/ギャラリー唐重

焼き物のお店「ギャラリーKARAE」

唐津くんちの絵巻図と由起子窯の黒唐津焼タイル300枚が圧巻の、ギャラリー唐重&インフォメーション。ギャラリー唐重は2021年7月オープン予定。唐津焼をはじめ、有田、波佐見など肥前窯業圏にまつわる器たちの展示販売を予定しております。