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INFO 2021.01.07

『花筐/HANAGATAMI』~檀一雄が訪ねた唐津~


2017年公開の大林宣彦監督映画『花筐/HANAGATAMI』をご存じだろうか。原作は、檀一雄の『花筐』で、戦争前夜の青春群像劇を描き、第79回毎日映画コンクール日本映画大賞をはじめ数々の映画のタイトルを受賞し、今も世界中で上映され続けている名作だ。実はこの映画、「50年後、100年後にも語り継がれる映画を」と地元唐津で製作委員会が立ち上がり、制作費を市民らで寄付を集め、唐津ロケと市民エキストラによって実現したご当地映画でもある。KARAE1階のTHEATER ENYAでは、 毎月8日にこの作品を市民600円・一般1000円 で定期上映している。今回はそんな映画の原作者・檀一雄と唐津にまつわるエピソードをお届けします。

40代の頃の檀一雄

小説『花筐』という作品

檀一雄の短編小説集『花筐』の中に、映画『花筐/HANAGATAMI』の原作がある。物語は、戦争前夜、時代に逆行するように奔放に生きた若者たちの青春群像劇だ。現代に生きる私達が読むと、難解だと感じる人も多いかもしれないが、初版本は、佐藤春夫が蝶の絵を描き、親友の太宰治が本の帯を執筆し、かの三島由紀夫が小説家になるきっかけともなったといわれており、当時の文学界では衝撃的な作品だった。この小説を読んで以来、生前40年以上に渡ってこの小説の映画化を夢見てきた大林宣彦監督も、その影響を受けた文学少年の一人だったのだ。

初版本の『花筐』

檀一雄が生きた青春時代と唐津との出会い

檀一雄の青春時代は、まさに第二次世界大戦に向かわんとする中、 旧制の福岡高等学校に進学。そこで、反戦運動をしたとして、学校から休学を命じられる。もともと放浪癖のあった檀だが、このころ初めて唐津に訪れたのではないかと言われている。 それから檀は、生涯にわたって度々この地を訪れている。海に涼む夕日を見るのが好きだった檀は、波戸岬や名護屋城跡、呼子、加部島方面も気に入っていたという。

当時の旧唐津銀行前の通りの風景

唐津を愛したアーティストたち

檀一雄がこの世に生を授かる少し前、唐津で放浪生活を送る一人の画家がいた。『海の幸』などでしられる青木繁(1882~1911)だ。肺結核を患い、死を予期しながら描いた唐津の海の絵は、『花筐/HANAGATAMI』のロケ地にもなった東の浜の海を描いたといわれ、市内の河村美術館に展示されている。

青木繁『夕焼けの海』(1910年)

それから、美人画で有名な大正ロマンを代表する画家である竹久夢二(1884~1934)も、檀と同じころ唐津を訪れている。檀一雄とのゆかりが深い柳川では北原白秋と親交があり、その後も度々唐津と博多や柳川を往来し、写真を撮影したり唄に詠んだりして、放浪の旅を楽しんでいる。

竹久夢二の美人画たち©Japaaan

檀一雄が生きた時代の人々

『花筐/HANAGATAMI』の製作にあたり、檀一雄の生きた時代、小説に出てきたシーンを理解し再現しようと、唐津の有志によって当時の写真が集められた。結果、西の浜に曳きこまれた唐津くんちの写真や旧唐津銀行、旧三菱商社、虹ノ松原を走る自動車の写真など、膨大な歴史資料となった。中でも、時代を描写する人々の記録写真は、この作品の人々の衣装やメイク、装飾、美術に大きな影響を与えた。


当時、檀一雄と同じ時代の同じ年代の旧姓唐津中学校(現在の唐津東高等学校)の生徒らの写真が残っている。当時の檀の姿が思い浮かぶようである。
芸者と炭鉱事業家の家で。大正時代の初期ごろ(相知町)
大正~昭和初期頃の消防団の集合写真。サーベルと白の軍服の団長が印象的

実は小説『花筐』には、舞台が唐津であることは一言も書かれていない。だが大林監督が若かりし頃、病床の檀一雄を訪ね、小説の映画化を相談したところ、「唐津に行ってごらんなさい」と返事が返ってきたという。そこで約50年前に敢行されたカメラマンの坂本善尚や檀一雄の長男・檀太郎らを伴ったロケハンでは、当時の唐津の文化の豊かさに驚かされたという。

辰野金吾や村野藤吾などの建築家を輩出し、古くから文化人に愛され親しまれてきた唐津のまち。大きく姿を変えた街並みもあれば、江戸時代から残る文化もある。その魅力は歴史とともに生きてきた人々の中にも確かに存在したに違いない。


『花筐/HANAGATAMI』を観る

KARAE1階にあるTHEATER ENYA(シアター・エンヤ)では、毎月8日に市民600円、一般1000演で『花筐/HANAGATAMI』を上映しています。また、現在Amazon primeでも配信され、DVDやブルーレイとして購入することも可能です。DVDやブルーレイは、THEATER ENYAを運営する一般社団法人Karatsu Film Projectへの佐賀県NPO支援ふるさと寄付金の返礼品としても購入いただけます。最も映画をお楽しみいただくのには、映画館の大きなスクリーンでご覧いただくことをお勧めします!


『花筐/HANAGATAMI』の唐津エピソードを知る

映画の撮影のロケ地になった場所や唐津グルメ、映画に携わった人々の一部をエピソードサイトでご案内しています。どうぞご覧ください。